研修費用を返還させたい
社長 こんにちは。
人手不足で困っています。
中川 どこも似たような状況ですね。
社長 それで、退職者を出さないようにいろいろな取組を行っています。
中川 たとえば?
社長 溶接資格検定試験の受験を奨励しています。そして全額会社負担をしています。
受験のためには会社で材料を使って練習もさせています。この材料費は安くありません。
中川 それは恵まれていますね。
社長 ところがそれが裏目にでています。溶接資格に合格すると、会社を退職するのです。それでは意味がありません。
中川 そうですね。
社長 それで、合格後1年間以内に辞める場合は、費用10万円を返還させたいですね。
中川 10万円とは高額ですね。
社長 本当は材料費だけで20万円はしています。
しかし、練習用として中古品をつかっていますから。細かいことを言えば、電気代から受験費用までも会社が負担しています。
中川 労働基準法では、損害賠償の予定は禁止されています。
社長 損害賠償の予定とは?
中川 あらかじめ損害賠償額を定めて雇用することをいいます。たとえば、会社の車を損傷させたら10万円払えと言うようことです。
社長 弊社の場合は資格後1年間は最低でも働いてということです。せっかく育てた社員に辞められてはたまったものではありません。
中川 であれば、誓約書を提出させたらどうですか?
社長 どんな誓約書ですか?
中川 たとえば、「もし、1年以内の退職する場合は受験費用の一部である10万円を返還します」というような。
社長 そうですか。
分かりました。
本日の記事は藤野金属工業事件(昭43.2.28 大阪高裁判決)を参考にしました。
一般的には賠償額を予定することは労働基準法16条に違反します。
この事件は離職防止と従業員の福利厚生として希望者のみに溶接資格の受験費用を会社が全額負担していました。
しかし、資格取得後退職者が増えるので、1年以内に退職する場合は3万円(今の金額に換算すると10万円くらい)の返還を請求したことが賠償額の予定違反ではないかと争われました。
会社は勤続を期待して受験費用を負担しており、それは会社が立て替え払いしていると言える。
また、返還金額は計算根拠が明確である。
この会社の場合は、3万円を払えばいつでも辞めることができるのであるから身柄を拘束しているとは言えないとなり会社が勝訴しました。
労働基準法16条で会社が敗訴することが多いのですが、この場合は勝訴しました。判決文を読むと、中小企業の苦悩が伝わってきます。
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